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二次/一般/ドラゴンクエスト5

小説/二次【これから】

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 ラインハットへと向かう道程。
 もう中ほどまで来ただろうか。
 関所は越えたものの、日が落ちて、辺りは茜色の平原に変わり始める。少し急げば今夜中にはラインハットに辿り着けたかも知れない。
 だが、まだ幼い息子、トンヌラに無理はさせられない。
 道中遭遇する魔物と懸命に戦い、必死に私の足について歩いて来るが、小さな身体に積もる疲労は、大人の私のそれとは比較にならないほど、重く膨大だ。
 息を荒く繰り返し、それでも弱音一つ吐かずについて来るトンヌラに振り返り、言った。
「もうすぐ日が沈む。今日はここで野宿としよう」



 掻き集めて来た薪が静かに燃える炎で、狭い周囲をほの赤く照らす。
 あぐらをかいた私の膝に頭を乗せて、トンヌラは深い寝息を繰り返していた。
 口には出さずとも、やはり疲れていたのだろう。横になるとすぐに、近くで物音がしても全く反応を示さなくなった。
 上掛けにしている青紫色の大きなマントは、普段トンヌラの身に纏わせているものだ。長旅の間に、随分汚れて、端々が破れたりもしているが、厚手の丈夫なそれは、寒さや衝撃などから何度もトンヌラを守ってきてくれた。
 細い首筋まで、そのマントを引き上げて肩を撫でる。
 周囲は魔物だらけの人里離れた森の傍ら、平原の片隅の夜。こんな状況でも、トンヌラは安心しきったような穏やかな寝顔で眠っている。その寝顔を見つめて、知らず知らず苦笑して、小さく燃え盛る炎に顔を向けた。
 腰のベルトに取り付けた道具袋に手を挿し込み、中を探る。小さい袋だったから、一、二度手を巡らせただけで、目当てのものが取り出せた。
 干し肉だ。
 町にいる時には非常食、旅の合間には常用食として、常備している。
 トンヌラの分も勿論あるが、明朝、目が覚めてからでいいだろう。
 袋から一切れ取り出して、軽く火で炙り、口にする。
 厚く硬い肉を噛みちぎるには、相当な顎の力が必要になる。歯を立て首を捻り、手でも引き絞る。そうしてようやく噛みちぎり咀嚼する。
 味付けは薄い塩味のみだが、悪くない。
 そうやって何度も噛んで、やがて滲み出る旨みを味わっていると、視界の端でトンヌラが動いた。
 起きてしまったのかと目を向けるが、どうやら、トンヌラが動いたわけではないらしい。
 トンヌラの上掛けのマントが、内側からの作用により盛り上がったのだ。こんもりと隆起したのは足元の方だったから、トンヌラが蹴り上げるか何かしたのかと思ったのだが、違う。
 マントの隆起は、初めはその場にとどまりただモゾモゾと蠢いていたが、ほどなくしてマントの末端目指して進み、やがてひょっこりと頭を出してこちらを見た。
「ミャぁウ」
 やはり寝惚けているのだろうか。猫に似た鳴き声は掠れていた。
 トンヌラのマントの下から這い出て来て、黒い鼻をひくつかせて私を、いや、私の手にある干し肉を見上げる、子猫のような小さな魔物。「地獄の殺し屋」とも呼ばれる凶悪な魔獣、キラーパンサーの幼獣である。トンヌラがアルカパの町で人から譲り受けたという。確か名前はビビンバだ。
 一見すると子猫のような、けれど成長すれば人々から恐れられ、忌避される魔物である。そんなキラーパンサーの子を、トンヌラが嬉しそうに連れて来た時には、勿論私も驚いた。けれど、トンヌラの瞳を見ていると、次第に「無理もないことか」と思えるようになってきた。
 トンヌラの母、私の妻、マーサにも、似たような思い出があったのだから。
 人と敵対し続ける凶悪な魔物の心を、柔和な微笑み一つで宥め、優しくその内に入り込んで、マーサもいつも周囲の者を驚かせていた。
 そんなマーサの血を引いているのだ。
 トンヌラがマーサと同じことが出来るとして、そこに何の不思議もない。
 このビビンバも、今ではすっかりトンヌラの心深き友人である。魔物との戦闘では、トンヌラを庇うように前に出て、子供とは思えぬほどの力で敵を切り裂く。
 こんな小さな身体で、ビビンバもまた、一生懸命に我々の旅に同行してくれているのだ。
 そんなビビンバを除け者にすることなど出来ない。
 私の側にやって来て、物欲しそうに見上げているビビンバに、小さな声で答えた。
「そうだな。お前も腹が減っているだろう」
「うにゃぁ」
 頷くように、一声鳴いた。
 頭頂に生えた幼いたてがみを撫で、袋からもう一切れ、干し肉を取り出すと、それをビビンバの口元に差し出した。ビビンバはすぐさまそれを咥え、両前足で押さえて喉を鳴らしながら食べ始める。よほど腹が減っていたのだろう。随分ガッついている。
「ゆっくり食べなさい。喉に詰まらせるぞ」
 トンヌラにでも言うように、静かに言い聞かせた。
 干し肉の端を両前足で押さえて、全身を使って硬い肉を引きちぎり、噛んで飲み込む。すぐまた前足で押さえたそれに齧りつく。
 一口一口必死になって肉を頬張る、小さなその姿を見つめながら、私もまた、手にしていた干し肉を齧る。
 ビビンバを連れて来てからというもの、トンヌラはよく笑うようになった。
 ビビンバと戯れ、甲高い声で無邪気に笑うトンヌラを見る度、愛しさと同時に苦しさを感じる。
 トンヌラが、こんなにも明るく屈託なく笑う子供だとは、私は今まで知らなかった。
 いいや。子供というのは、元来明るく笑うものなのだ。
 私は、今までずっと、無理をさせて来たのかも知れない。
 トンヌラが本来持っている明るさや無邪気さを、私は知らず知らず抑圧していたのかも知れない。
 生まれたばかりのトンヌラを連れて、何処かへと連れ去られたマーサを探し、今日まで旅を続けて来た。
 いいや、マーサを見つけ出すまで、この旅が終わることはない。
 我が妻、トンヌラの母、マーサを探す旅。それは私が望んだもので、トンヌラはただ私に振り回されているだけに過ぎないのかも知れない。トンヌラとて母親に会いたい気持ちはあるだろう。だが、その気持ちが、私が抱くものと全く同等だとは、例え血の繋がった親子といえども言い切れないのではないか。
 連日連夜歩き続けて来た。険しい山道や、足場の定まらない湿地、暗い森の奥深く、魔物が徘徊する廃墟。いくつもの危険な場を、私はトンヌラを連れて進み続けて来た。戦い慣れた私でさえも、それは苦難の連続だったのだから、幼いトンヌラにとっては、それは地獄のような嘆きの毎日だったのかも知れない。
 けれどトンヌラは何も言わず、ただ黙って、私の言うことに従い、私の行く所には何処にでも共に来てくれた。
 それはトンヌラが幼く、そうする以外に何も出来なかった、と表現する方が正しいのかも知れない。
 だが、果たして本当にただそれだけだと言い切れるだろうか。
 例えば「抗う」というトンヌラの自我を、私が知らぬ間に摘み取ってしまっていたと、そうも考えられるのではないか。
 私と過ごす日々の中で、トンヌラは、果たしてどれだけの辛抱を強要されて来たのだろう。
 私はトンヌラに、どれだけ非情な父の背中を見せて来たのだろう。
 私のエゴイズムでどれだけ、愛しいトンヌラを苦しめて来たのだろう。
 ビビンバが共にあるようになってから、しばしば、私はそう考えるようになった。
 父親としての自分を、幾度も見つめ直すようになった。
 ビビンバと戯れている時のような笑顔を、私は、トンヌラに作らせることが出来るのだろうかと、幾度も、そう考えるようになった。
 早くも干し肉を食べ終えてしまい、もう一切れとせがむビビンバの丸い瞳に苦笑する。
 私の食べかけの肉を与えると、ビビンバはまた猛烈な勢いで齧り始める。
 喉を鳴らしていかにも嬉しげに肉を食べるビビンバの小さな背を撫でて、それから、いたいけな寝息を立てるトンヌラの柔らかな頬を撫でた。
 明日には、ラインハットの城に辿り着く。
 そこでの一件が済んだら――
 そうしたら、次の出発の前に、トンヌラとビビンバを連れて、のんびり釣りにでも行ってみようか。
 ラインハットの関所を跨ぐ大きなあの川で、一日中、日が暮れるまで、遊んでみようか。
 次第に闇に埋もれて行く焚き火の炎に、そんな小さな夢を、思い描いた。
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