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「小説」
オリジナル/一般

小説【Mさんの部屋】

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 先輩芸人のMさんが部屋を借りました。
 年齢だけなら中堅どころのMさんは、最近じわじわと人気が出始めテレビで見かけることも増えて来ましたが、それに驕ったりもせず、昔から変わらず後輩達の面倒見のいい人です。最近になってようやく安定して収入が得られるようになったが、ちょっと前までいくつになっても「若手」同然だったと、酔うといつも下積み時代の苦労話になります。僕はMさんの後輩の後輩の後輩というかたちで、直接の繋がりはほとんどありませんし、一緒に飲みに行ったのも数えるほどしかありませんが、それでもMさんは僕の名前を覚えてくれているし、仕事振りも気にしてくれます。
 そんな人だから後輩達に慕われて、引越しの時も何人もの無名の若手芸人が手伝いに駆けつけました。僕もその一人です。
 Mさんが部屋を借りたアパートは、都心から電車で三十分ほどの町にある古い二階建てです。駅やバス停から遠く、最低でも自転車がないと買い物もしづらく不便だし、窓から見えるのは雑木林だけで、まぁとにかく何もないところです。辺鄙なところというのでしょうか。他の民家も離れていて静かなのはいいけど、静か過ぎて退屈な印象は、誰もが感じるところだったと思います。でもMさんは静かな方がいいらしく、特に不満はなさそうでした。というより、後で聞きましたが、知り合いの不動産屋から格安で紹介された物件だというから、文句を言う気もなかったのでしょう。なぜ格安かというと、実はここで陰惨な殺人事件があった……とかではなく、この不便さ退屈さゆえに入居者がおらず、安くするから入ってくれ、ついでに仲間にも紹介してくれ、という話らしいです。何でも、数十年前に近隣で大規模な都市開発計画が持ち上がったらしく、このアパートもその頃将来を見越して建てられたらしいが、結局計画は頓挫して近隣は何もなく静かで退屈なまま、となってしまったようです。下積み時代ならともかく、正直、今のMさんだったらもっといい部屋を選べたと思いますが、ボロアパートの方が面白そうだから、という芸人らしい理由もあるそうです。でもMさんには倹約家という一面もあるから、多少不便でも安く済ませられるならその方がいい、とも思っていたかもしれません。不安定な仕事ですから。何にせよ、独り身のMさんですから、Mさん自身で好きに決められます。
 アパートは一階二階それぞれ四部屋ずつあって、Mさんの他に入居者は二人いました。いずれも独身男性で、一階と二階に部屋を借りています。Mさんは、二階の内側の部屋を借りました。角部屋も空いていたのですが、目を閉じて指差した先が、階段から一部屋置いた二〇二号室だったからそこに決めたそうです。
 引っ越し当日、入れ替わり立ち替わりで十数人の後輩達や、Mさんの友人の女優、Nさんも遊びに来て、部屋の片付けはすぐに済みました。その日は僕も含めた数人の後輩達が、Mさんの誘いもあってそのままMさんの部屋に泊まりました。
 周りに何もない退屈な場所だし、Mさんの部屋の両隣も真下も空き部屋なので騒音で迷惑をかけることもないし、それからもたびたび、Mさんの部屋に遊びに行きました。泊まることも多くあり、Mさんの部屋は、若手芸人達の溜まり場のようになっていきました。


 ある日も仲間達数人でMさんの部屋に泊まったのですが、風呂から出て来た一人が「風呂場、変な臭いしませんか?」と言い出しました。みんなで風呂場に行って臭いを嗅いでみたところ、確かに妙な臭いがします。
「俺の実家で、ネズミ捕りの毒を食ったネズミが物陰で死んで腐ってたことがあって、家族みんな、最初は死骸が見えないから気付かず『なんか臭い、臭い』って言ってるだけだったんだけど、その時の臭いに似てる」
 と、一人が言ったんです。
 古いアパートだから、ネズミがいてもおかしくない。ってことはまさか、どこかで死んだネズミが腐ってて死臭を放ってるのか? と、みんなで気味悪がりながら、風呂場を隅から隅まで確認してみたんですが、まぁ、風呂場にそれほど死角なんてないですからね。どこからもそんなものは見つかりませんでした。となると排水口からだろうか、と、なりますよね。懐中電灯持って来て覗いてみたけど何も見えない。手を突っ込んで確かめてみたら、という話になって、ジャンケンで負けた奴が手を突っ込むことになったんですが、それでMさんが負けちゃって、泣く泣く排水パイプに入るところまで腕を突っ込んでみたんですが、ヌルヌルになるだけで何もなかったんです。
 臭いは気になるけど、何もなかったんだからどうにも出来ないですよね。結局窓を開けて換気しながら風呂に入ることになりました。
 でも、その風呂場の死臭が日に日に強くなっていって、さすがに耐えられないとなって、業者さんを呼んで何とかしてもらうことになったんです。
 でも、プロの水道業者さんが見ても臭いの原因はわからなかった。
 これも笑いのネタになるだろうということにして、Mさんはそれから毎度毎度窓を全開にして風呂に入るようになりました。臭いで気分が悪くなる人は、Mさんの部屋でシャワーを借りることはなくなりました。

 別の日に、Mさんの部屋で転寝をしていた時ですが、夢を見ました。
 隣の空き部屋、二〇一号室の扉が開いていたんです。管理人と不動産屋が、何か部屋の手入れをするとかで扉を開けて、そのままその場を離れていたんです。悪さをするつもりはないけど、扉が開いていたら条件反射で、何気なく部屋の中を覗いてしまいました。
 そしたら、部屋の奥の板の間に床下収納庫があって、そこから人の足が生えてバタバタしていたんです。その足が誰のものかはすぐにわかりました。いつも派手なレギンスを穿いていて、本人はお洒落のつもりらしいけどどう見ても「大阪のおばちゃん」にしか見えないから、仲間内では「おばちゃん」と呼ばれている奴の足です。彼は床下収納庫に上半身を突っ込んで、派手なレギンスを穿いた両足をバタバタさせて叫んでいました。
「○○! やめろ、○○!」
 収納庫の奥に引き摺り込まれそうになっているのか、誰かの名前を叫びながらもがいている彼を、もちろんすぐに助けなければと思いました。が、その前にどうしても目に入ってしまったものがあって、混乱して動けなかった時間があったのは確かです。
 空き部屋のその室内に、ニワトリがツガイでケージに入っていたんです。
 ペットショップにあるような、ちょっと汚れたケージの中に、大きなニワトリがオスとメス一羽ずつ、コッココッコ言いながら狭いケージの中をゆっくり歩き回っていたんです。
 ペット不可のアパートの空き部屋にニワトリ、何だあれ、と軽いパニックに陥りましたが、僕がパニクっている間にも「おばちゃん」は「○○! やめろ、○○!」と叫びながらもがいています。とにかく助けなきゃ、と慌てて彼の方へ走り、暴れる両足を掴んで何とか引っ張り出しました。収納庫の奥に引き込む力が相当強かったので、一人で引っ張り出すのは苦労しました。
 ……という夢を見て、まぁ夢なんだから何でもアリだよな、とは思うのですが、一つ妙に気になることが残りました。
 現実にはこのアパートのどの部屋にもないはずの床下収納庫に、引き摺り込まれてもがいていた派手なレギンスの彼、「おばちゃん」が叫んでいた「○○」という名前です。
 夢っていうのは、その人の記憶が整理されてるものらしいから、普通はその人の記憶にあるものが出て来る、というような話を聞いたことがあります。でも、「おばちゃん」が叫んでいた「○○」という名前は聞き覚えがありません。自分の知り合いにはその名前の人はいません。
 夢の中の些細なことですが、それが妙に気になって、後日「おばちゃん」に聞いてみました。
「○○、っていう名前の知り合い、いる?」
「いるよ。学生の頃からつるんでる友達で、今でもよく遊んでるよ。え、あいつのこと知ってるの?」
 「おばちゃん」はあっさりそう答えてくれました。「○○」という名前の人物は実在する人で、かなり親しい間柄のようでした。「おばちゃん」にそんな友達がいるというのを、僕はそれまでまったく知りませんでした。
 でも、彼の親しい友人であるその「○○」さんの名前を叫びながら、床下収納庫に引き摺り込まれそうになっていた彼の夢を見たとは、申し訳なくて話せませんでした。

 仕事を頂いて、あるテレビ局内にいた時です。
 二階にあるサロンで、女優のNさんを見かけました。
 Nさんは、育ちのいいお嬢様風の綺麗な女優さんですが、とても気さくでお笑い好きな方らしく、芸人友達が多いそうです。Mさんとも以前から親しくされていたようで、そのため、引越し当日も顔を見せに来たらしいです。
 この日、Nさんは男優のKさんとサロンで話しているようでした。
 美形の俳優さん二人が並ぶとさすがに画になるなぁー、とか思いつつ、一応Nさんに挨拶をしておいた方がいいだろうと、近付いて行きました。NさんとはMさんの部屋でお会いしただけだし、僕のことなど覚えていないかもしれませんが、だからといって素通りして、万が一覚えていたら、無視したことになってしまいます。こういう細かいところで仕事が入ったり入らなかったり、後々に響いたりするかもしれないので、挨拶には神経を遣います。
 近付くと、Nさんの声が聞こえました。彼女は、Kさんに向かって真剣な顔で話しています。
「猫ちゃんの気持ちがわかるの。猫ちゃんが言うのよ。猫ちゃんの代わりに私がしてあげないと。猫ちゃんのこと思うと……」
 飼い猫の話でもしているんだろう、と思いましたが、その途端、Nさんが突然悲鳴をあげました。
「キャーッ!」
 結構な声量で突然叫び声をあげるものだから、僕のみならず周囲の人達も何ごとかと驚いてNさんの方を振り返ります。でもNさんはまったく気にした風もなく、Kさんと話を続けていました。
「って、叫びたくなるの。猫ちゃんの気持ちがわかるのよ」
 正直、今声をかけていいものかどうか悩みました。もしかしたら、演技の練習中だったのかもしれません。だとしたら余計声をかけちゃまずいかもしれないけど、悩んでいる内にNさんが僕に気付きました。
「あ、以前Mさんの部屋で」
 素通りしなくてよかった。Nさんは僕のことを覚えていてくれたようです。以前Mさんの部屋で見かけた時と同じ、気さくな明るい雰囲気で、Nさんは笑いかけてくれました。Nさんはわざわざ椅子から立ち上がって僕と向き合ってくれたので、僕も誠心誠意挨拶をしました。その様子にまったくおかしな雰囲気はなかったので、さっきの猫の話はやはり演技の練習だったんだろうと思いましたが、でも、僕とNさんとで話している間、それまでNさんと向き合っていた男優のKさんは、気味悪そうにNさんを見ていました。
 挨拶を終えて行こうとしたところで、Nさんが僕に問いかけました。
「猫ちゃんはどうしてる?」
 僕は猫など飼っていません。誰かと勘違いしているのかもしれない。
「いえ、うちはペット飼ってませんよ」
「Mさんのとこにいた猫ちゃんよ」
 Mさんの部屋でも、猫は飼っていません。あのアパートはペット禁止です。
 意味ありげににっこり笑って、Nさんはまた椅子に腰かけ、Kさんと「猫ちゃん、猫ちゃん」と話し始めました。

 Nさんの「猫ちゃん」の件があってから思い出しましたが、Mさんの部屋にいる時、確かに何度も猫の鳴き声を聞きました。いつの頃からかは覚えていませんが、Mさんの部屋に泊めてもらい、眠っていると聞こえて来ます。その鳴き声で目が覚めたこともありました。派手なレギンスの「おばちゃん」が床下収納庫に引き摺り込まれる夢を見た時も、そういえば猫の鳴き声で目が覚めました。「ニャアー」と大きく長く響く声です。どこかの飼い猫が近くを歩き回っているのだろうと、まったく意識もしていませんでした。
 でも、Nさんの妙な様子を見てから急にそれが気になりだして、僕の直接の先輩芸人Uさんに聞いてみると、猫の鳴き声よりさらに変な答えが返って来てしまいました。
「猫の声も聞いたことあるし、風呂入って頭洗ってる時、女の人の話し声みたいのが聞こえた。部屋に女の子いなかったしテレビの声だろうな、って思ってたけど、風呂場の外からじゃなくて、俺のすぐ近くから聞こえるような気がして、気味悪くなってすぐに出たけど。あと、夜中の変な時間に目が覚めちゃって、ボーッとしてたら、部屋ん中誰かが歩き回ってんだよ。どんな奴かは真っ暗で見えなかったけど、ヒョロッとした人影で。みんなが寝てるとこ避けもしないで、スーッて滑るみたいにして、ウロウロウロウロしてたんだよ。うわ、やべーモン見ちまった、こりゃ寝れねぇ、って思ったけど、気付いたら寝てた」
 Mさんの部屋に行ったことのある芸人仲間の多くが、同じような奇妙な体験をしていました。
「平日の昼間、窓から見える雑木林の方で、何か動いてるなー、って思って目向けたら、ランドセル背負った女の子がこっちに向かって手振ってるんだよ。平日だったし、学校どうしたのかな、って思って、それに今時女の子一人なんて危ないだろ。とりあえず窓開けて『どうしたの?』って声かけてみたんだ。そしたらその子、キャハハハハーって笑って消えちゃったんだ」
「窓開けて風呂入ってたら、やけに白い顔してメチャクチャ黒目がちな女に覗かれた」
「Mさんの引越し手伝いに、あのアパートに初めて行った日なんだけど、俺とSで昼飯買いに出かけただろ? あのアパートの外付け階段て、踊り場ないだろ? 昼飯買いに二人で階段下りた時さ、踊り場が一つあったんだよ。買出しから戻って階段上った時には踊り場なくて、でもその時は気付かなくてさ。何か変な感じしたなー、とは思ってたんだけど、よくわかんなくてさ。後になってSに『階段で一回変なことなかった?』って聞いたら、『踊り場で一回折り返したよな?』って、あいつもやっぱり首ひねってたよ」
「Mさんの部屋に泊まった次の日、自分の部屋に帰ったら、『出て行け!』って怒鳴られた。一人暮らしなんだけど」
 Mさんの部屋に入った人達の多くが、何かを聞いたり見たりしていたようです。でも中には、Mさんの手伝いに向かう予定だったけど、アパートに近づけなかった人もいたようです。
「手伝いに行きますよ、って、Mさんには言ったんだけど、アパートが見えて来たら足が竦んだ。ゲームのワープ中みたいに、アパート全体がゆらゆら揺れて見えたんだ。急にものすごく気持ち悪くなって、これ以上近づけない、って思って、Mさんには悪いけど体調不良で帰らせてもらった」
「Mさんの引越し手伝いのことは、芸人仲間以外とは話してなかった。一般人の友達で霊感強い奴がいるんだけど、そいつがいきなり『Mさんの部屋には行かない方がいい』って言い出したんだ。その時は俺もアパートの名前までは知らなかったのに、そいつはそれも言い当てて、『お前がそこに行くと絶対まずいことになるから、行かない方がいい』って何度も言うんだ。俺はあんまりそういうの信じないんだけど、そいつが本当に真剣に何度も言うから、手伝いに行くのはやめといた」
 不動産屋の言う通り、このアパートや近隣でも、陰惨な殺人事件や自殺の類がないことは、調べてわかりました。怪奇現象と縁もなさそうな場所だと思うのですが、「霊の通り道」とかいうものもあるらしいですし、Mさんの部屋、あるいはアパート自体が、そういう通り道になっているのかもしれません。
 僕は霊感とかもなく、奇妙な夢を見た以外、今のところ「これ」といった怪奇現象に遭遇してもいないのですが、でも、こうもあれこれと色んな話を聞くと、毎日その部屋で生活しているMさんの身が心配になります。
 あるイベントでMさんとご一緒出来た時、思い切ってたずねてみました。
「Mさん、今住んでる部屋、ちょっとおかしくないですか?」
「おう、めちゃくちゃおかしい。ソッチ系の仕事もイケそうなくらいおかしい」
 いいネタを拾ったような嬉しそうな笑顔で、Mさんは答えました。
 Mさんはあの部屋に住み続けながら、今も元気に仕事を続けています。
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