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二次/一般/葛葉ライドウ
小説/二次【ストレイサマナー】
(0) cmts.  
 筑土駅正面に架かる橋に佇む、一人の書生の寂しげな姿に、道行く人々、特に女性達は、みな足を止めて振り返った。赤い夕陽に照らされ、悲しげに川面を見つめる長身の彼の、その儚げな美しさに恍惚となりながら。
 黒い学帽に学生服、肩から覆うマント、上から下まで黒尽くめという、一見暑苦しい格好だが、反して彼の美貌は雪のように白く、涼しげだった。夕暮れの欄干に寄り添い、はらはらと揺らめく川面に何ごとか想いを馳せる一人の少年。夕陽色に煌く姿は、ことのほか見事な画になる。
 足元にちょこんと座った黒猫も相まって、彼のいるその空間だけ甘い夢のように香り、人々は、その光景に束の間見入ってしまうのだ。
 絶え間なく行き交う町人の足音が、時の経過と共に少しずつ闇に消えていくと、足元の黒猫が待ってましたとばかりに、しなやかに漆黒の身を躍らせた。赤い欄干の狭い足場の上に軽やかに飛び乗り、先刻から一言も発せず、身動ぎ一つしない書生の美貌を見上げて、「ニャア」と鳴いた。
 いや、その猫の鳴き声は書生の耳には、「本来」の声と「言葉」として聞こえているようだ。
「ライドウ。どうした? 業魔殿を出てから、様子がずっとおかしいようだが……どうかしたのか? 俺に答えられる話なら聞くが?」
 黒尽くめの書生は、いつも通りに黒猫の言葉を聞き取り、瞳をちらりと動かした。
「……怒るか?」
「……」
 首を傾げる猫に、彼は繰り返す。
「そんな小さなことに心を惑わされるような甘ったれでは、十四代目葛葉ライドウの名に瑕がつく、と……怒るか? ゴウト」
「……聞いてもいない話に答えが出せようはずもない。そんなこともわからぬようでは、それこそライドウの名が泣くぞ」
「……それもそうか」
 小さく頷き、彼はまた、川面に視線を流す。
 黒い水面に映り込み、流水に乗ってゆらゆらと身をくねらせ踊るガス灯の明かりに囁くように、やがて彼は呟いた。
「いつも思っていたんだ……『悪魔合体』は、人間の『子作り』とは違うのだな、と」
「……」
 黒猫の三角形の耳がぴくりと震え、青い瞳に怒りが宿る。
「何を言い出すかと思えば……深刻な顔でそんな下品な冗談を考えていたのか、お前は!?」
「違う」
 下らない戯言と思って毛を逆立てる黒猫に、彼は首を横に振って見せた。欄干の猫に目を戻す。
「別個の二つの生命体が交わると、人や獣の場合、新たに子が生まれる。だが悪魔の場合は違う。僕の意思一つで、交わりを強制された悪魔は、ヴィクトルの機械の中で、消えてしまう。全く別種の新たな悪魔が生じる。以前の悪魔は、そこにはもういない。『違うんだな』、と思った。似たようなことはしているものの、やはり人と悪魔とは違うんだ、と……僕がしている……やらせていることは……殺しているのと同じだ」
「……そんなのは……いまさら改めて考えることでもないだろう。人と悪魔が違うのは当たり前だし、合体させて悪魔を強化していかなければ、こっちが敵に殺される。感傷的になる理由も、そんな暇も――」
「――ない」
「……」
「わかってるよ、ゴウト」
「……」
 指先が、黒猫の喉元を摩った。
 指はすぐに離れる。
 微かな風が巻き起こり、黒猫のヒゲを震わせた。
 彼が背を向け、そこから歩き出した際、翻ったマントの風圧がそうしたのだ。
「余計な時間を取らせてしまって済まない。戻ろう。そろそろ鳴海さんが腹を空かせている頃だ」
 歩きながら肩越しに振り向いて、微かな笑みを浮かべて言う。
「……」
 欄干からレンガ道に降り立ち、黒猫は書生の後を追った。
 無機質で規則正しい音を響かせる足元に近付くと、猫は「ニャア」と呟いた。
 泣く子をあやすような優しい声で。駄々を捏ねる子に言い聞かせるような、厳しい声で。
「観察力が足りんな、ライドウ……作られた新たな悪魔達は、『知っている』んだぞ……?」
「何を?」
「お前の癖や考え方を、だ」
「……」
 ここで足を止めなければ、ゴウトも彼を激励しようなどという気を完全に失くしていただろう。
「……癖……?」
 小虫が飛び交う灯りの下で彼は振り返り、眉を顰めて黒猫を睨む。光りの下から離れた中の、闇が答えるように、そこにすっかり溶け込んだ黒猫は頷く。
「戦う時の癖や、どんな相手からどんな手で狙っていくかという考え方、得意とする戦術や、避けて通りたがる苦手な相手……あるいは、食べ物の好みとか、女の趣味とか、な」
「……」
「教えたわけでもないのに、新たに出会った仲間となる悪魔が、それらを熟知しているのはなぜだと思う? そこに『いる』からじゃないのか? お前の技量を認め、その力になろうとした元々の悪魔が、わずかながらもそこに、残っているからじゃないのか……?」
「……」
 黒猫は大仰にため息を吐いて、長い尻尾をぐるりと振り回し、彼の傍らをすたすたと歩き過ぎて行った。
「『殺す』というのは、跡形もなく消すということだ。お前のしていることは違う。『生かして』いるんだ。元々の仲魔達が在ってこそ、新たな仲魔が生まれる。その仲魔を生かしてこそ、元の仲魔も存在していた証に生きる。彼らを手放さない限り……お前に敬意を表した悪魔達は、お前の傍らに生き続けられる。より大きな力となって、な……」
「……」
 間もなく、無音の猫の足音に、硬い革靴の足音が続いた。
 彼らが住み込んでいる鳴海探偵事務所の輪郭がやがて見えて来ると、彼はぽつりと呟いた。
「それなら、いい……」
 叶わぬ夢を望むような、切なげな声だった。
「……腑抜けている余裕はないぞ、十四代目」
「あぁ、わかってる。それはそうと……僕の女の趣味、って……?」
「……」
「……知ってるのか? なぁ、知ってるのか? 何で知ってるんだ? もしかしてみんな知ってるのか? バレてないと思ってるの僕だけか? ねぇ。何か言ってよ、ちょっと。ねぇ。ゴウト」
「……知らん」
 素知らぬ振りで尻尾を揺らし、足早に進む黒猫に、書生は必死に追い縋る。
 拭いきれない切なさは、諦めで誤魔化すしかないのかも知れない。
 けれどその後ろ姿に、寂しげな影はもう見えなくなっていた。

09/11/2

テーマ : 二次創作:小説 - ジャンル : 小説・文学

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